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初代さんはいつまで凌辱されてればいいのか今の僕には理解できない。
「エリ、エリ、―――ハツール!(救いたまえ、我が神よ)」
「…ッ!」
俺が叫んだその言葉が、我が旧き時代の幼き頃の言語であると理解した途端、エリクが針を持ち手の部分まで突き刺した。針が妙な力で一瞬戻された後に、文字通り突き破ってくる。俺が人間じゃないとわかってるからできるのだろう。そうでなければこんなこと、同じ男として出来ない筈だ。こいつはもう、俺を男とすら認識していないのだ。
「がは…っ、あ、いた、いつ…ぅ…っ。」
「ええ、痛いでしょうね。でも血も体液もふさがって出てこない筈です。これから先、ここから何か出てくることも、出すことも出来ないでしょう」
そうとわかっていながら、もう自立することも出来ないそこを、乱暴にしごく。中で針がわずかに動いているのだろう。肉を新しく突き刺し、新しい溶岩のような血があふれるが、それは決して外へ出ることはない。傷と血が溜まり、混ざり、太ももの内側がしびれていく。
どこまで行っても、オレの心は折れないとわかったのだろう。絶望したとしても、決してその爪先に、俺のくちびるが触れることはない、と。このままこいつを甚振っていても、自分が惨めになるだけだ。
それなら、「たったひとつ」を奪ってしまえばいい。
短絡的な思考だ。
憐憫の感情しか持たない、宗教家としてのオレが、エリクを見つめる。
憤怒の感情しか持たない、父親としてのオレが、エリクを見つめる。
そして、恐怖の感情しか持たない、人間としてのオレが、エリクにすがっている。エリクは人間としての俺を籠絡しようとしたが、それを二つの側面のオレが強固に拒んでいるのだ。きっとあの方の時も、同じように、父と霊が、子を励ましていたのだろう。
ぶち、ぶつ、と、俺の下腹部に穴が開く。痛いという感覚がもはやないことが、せめてもの救いなのだろうか。エリクは死にかけの下腹部に、惨めな権力を深々と突き刺し、両手を腰に回し、不自然に引き上げる。縛られた腕の不自然な角度に、肩が悲鳴を上げている。繋がっているというより、食い込むという表現が合っているような、そんな文字通りの「結合」。がん、がん、と、背骨をベッドに押し込むように動かれると、血まみれの針が滑稽な有様で動く。
「なにを意固地になっておられるので? 辛いでしょう、痛いでしょう。私はたった一言、その一言だけを乞うて、こうしてあなたに嘆願しているというのに…」
「ああっ! あ、ああーっ、ああああああ‼ うわああああ‼」
色気もへったくれもない。痛みか恐怖かも関係ない。血も涙も飛び散って、汗があるのかすら危うい。それでもオレは叫び続けた。そうでなければ、別の側面のオレがここぞと出てきてはいけないとわかっていたから、だから叫ばなければならなかったのだ。
「何かおっしゃって下さい、お父上」
「いや、やだ、やぁだ、あだ、やぁーっ‼」
オレではないオレが叫んでいる。何を否定しているのだろう。誰が否定しているのだろう。なぜ否定しているのだろう。
―――それは、私を呼ぶためです。偉大なるお方。
バキッ!
歯がぐらりと揺れる。エリクの握り拳が、俺の鰓を殴り上げたのだ。ごき、と、関節がずれる音がする。受け身を取る暇も余裕もなく、怒り狂ったエリクの拳が、体を折り曲げて、顔が、右へ、左へ、上へと吹き飛ぶ。ところどころが勢いで切れた。
「なぜだ、何故だ、何故私の物にならぬ! 私はスウェーデン国王、エリク王朝を始める者だぞ! なぜ私の物にならないのだ、何故、わたしのものに!」
ずるっ。
そうだ、その言葉を待っていた。
一人の男としての独占欲が、満たされぬ支配欲を凌駕するその瞬間。信仰が一切を塗りかえるその瞬間。
「信仰」がその場に「いなくなる」瞬間だ。
オレの身体はベッドに沈み込み、エリクの元を離れた。物体を介さない空間―――あえて言うならばそう、そこは、復活した「あの方」が、鍵のついた密室の小屋に入るときに通った、あの場所だ。オレの身体は、髪の毛が急速に伸びていき、人前に出るに足る程度にまで増えていく。ああ、あの聖女が来てくれていたのか。
「お助けできたでしょうか」
全身を髪で隠した、やせっぽちの小さな少女が、あおむけに揺蕩うオレの頭を抱きかかえる。少女の頭を、何か別の光が照らしている。
ああ、貴方のお姿を見るのは、幾世紀ぶりでしょうか。
「私は正しいことをできたでしょうか?」
オレがそう問うと、光は俺の親指を照らした。その光は集まり、赤く光り、固まっていく。
ああ、よかった。穢れのない指輪が戻ってきた。これであの子に、あの小さな子に、拠り所を返してあげられる。
「主よ、今一度、私に力をお与えください。あの男に最後通牒を突き付けねばなりません」
光がゆっくりとオレの髪に集まり、体の向きを整える。オレの肉体はもうボロボロではなかった。いつの間に、なんて無粋なことは聞かない。
光がオレの髪に吸い込まれていく。酒池肉林が繰り広げられていたその場で、エリクは狂ったようにベッドを引き裂き、掘り返していた。オレを掌握すれば、権力を握れると思っていたのだろう。
オレは後ろから声をかけた。
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