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「スウェーデン国王エリク」
もうオレを怯えさせるものは何も無い。あの方の光を借り受けて、すっかり機能を取り戻した足腰に力を入れて、憐れな男の後に立つ。先程までの自信と横暴さはどこにいったのか、化け物でも見たかのように怯え、血塗れのシーツの中に逃げ込もうとしていた。
「お前の望み通り、祝福を授けよう。これは聖霊降臨(ペンテコステ)によってこの世に生まれた原始教会であり初代教会であり、ローマ、コンスタンティノープル、アンティオキア、アレクサンドリア、そしてエルサレムの父であるこのオレの言葉である」
カタカタと声にならない声で、俺に赦しを求めようとする。罪を犯したのではなく、冒したのだということに気づき慄いているのだ。だが気付いたのであればそれは幸いと思うべきだ。
「ひとつ。お前を祖とするスウェーデン王家エリク王朝は実現する。これは神の御心である。
ひとつ。その王朝は、父、子、聖霊から1代ずつ祝福され、列聖者も出る。しかし神は四位格ではないので、エリク王朝は三代目で絶える。これは神の御心である。
其の罪を定めるは我に非ず、其の罪を裁くは我に非ず、その罪を赦すは我に非ず。大罪と知らず犯すものを恥じず、大罪と知りて犯すものを恥じよ。汝は神の贖いの中にある。主を讃えよ」
―――
ん? あれ?
目が覚めた。エリクに最後通牒を突きつけ、そのまま御胸で眠ってしまったのか。オレはローマンの寝室にいた。ローマンはもぞもぞと寝返りをうち、何か寝言を言っている。
「…こにぃ…アンティオ…エリシャ…あれくす…」
昔の夢を見ているのか。指輪がないと気付かなかったのはよかった。起こさないように、そっと近付き、赤子のように丸まった左手を解し、親指に指輪を通す。よかった、ちゃんと返せた。きちんと穢れのないやつを。
「…ゃじ?」
「なんだ? ここにいるぞ」
ぽうっとした顔で、ぼんやりとオレの顔を見上げる息子の顔色は、月が照らすまでもなく蒼かった。
「あのな…コニーたちとけんかしたんだ」
夢の中の話だろう。俺は横になって目線を合わせた。
「ゲルマン人が仲間になって…彼らはとても彫刻がうまかったんだ。だから…俺は、マリアやイエスの像をつくろうと…したら…みんなが、それは偶像崇拝だから、絵だけにしようって…ケンカして…コニー、コニーが…」
段々と覚醒してきた瞳が、夜よりも深い絶望に吸い込まれていく。今にも興奮して叫びそうなローマンの目の前に、今さっきオレがはめた指輪をつけた、自身の左手を見せた。
「大丈夫。主は見ていて、お前の悲しみも苦しみも見ておられる。大丈夫。コンスタンティンやアンティオコスやアレクサンドリアやイェルシャラムとの仲も、この先必ず取り計らってくださる」
「ほんとか? だって、俺いっぱいころしたよ…たくさんたくさん、ころしたよ…おうさまに、さからいたくなくて…だって、だって逆らったら、スウェーデンの俺の仲間が生きてけないから、だから俺が行かなきゃ誰も来れなかったんだ」
「そうだとも。お前はそれでいいんだよ。例え神の火を盗み、国を滅ぼす者がいたとしても、お前はそれを拒否する勇気ではなく、受け入れる苦しみを分かち合うべきだ。人を殺さず、誰とも仲良くなんて、オレ達の次元じゃ祈ることしかできない。お前は分相応な行動をしたんだよ」
ぐすぐすと泣き出した息子の頭を胸に引き寄せ、頭を包み込む。なんて可愛そうな、オレの息子。出来ることなら、子供のまま、時代と共に消えゆく小さな種でいさせてあげたかった。けれども主はそれを良しとされなかった。主は俺に老成を求め、息子に自立を求め、そして闘いに巻き込まれることを望まれたのだ。
「Mea culpa. Mea culpa…(我が過ち也)」
「 Exaudivit Dominus deprecationem meam, (主は私の嘆きを聞かれる)
Dominus orationem meam suscepit.(主は私の祈りを受け入れられる)
大丈夫だからおやすみ。おまえのストラは血の赤じゃない」
「じゃあ何の赤?」
指輪を撫でて、オレは答えた。
「赤と金の聖座の色、そして、人々の苦しみから逃げなかった、おまえの宝石のような魂の色だよ」
その石の色は、少しでも不純物が入れば、赤くはならない。
お前の在り方は、濁りのない純粋なものだよ。
だからおやすみ。
起きたら陽の光の下で、そのルビーのストラを見せてあげようね。
ルビーのストラ ~完~
もうオレを怯えさせるものは何も無い。あの方の光を借り受けて、すっかり機能を取り戻した足腰に力を入れて、憐れな男の後に立つ。先程までの自信と横暴さはどこにいったのか、化け物でも見たかのように怯え、血塗れのシーツの中に逃げ込もうとしていた。
「お前の望み通り、祝福を授けよう。これは聖霊降臨(ペンテコステ)によってこの世に生まれた原始教会であり初代教会であり、ローマ、コンスタンティノープル、アンティオキア、アレクサンドリア、そしてエルサレムの父であるこのオレの言葉である」
カタカタと声にならない声で、俺に赦しを求めようとする。罪を犯したのではなく、冒したのだということに気づき慄いているのだ。だが気付いたのであればそれは幸いと思うべきだ。
「ひとつ。お前を祖とするスウェーデン王家エリク王朝は実現する。これは神の御心である。
ひとつ。その王朝は、父、子、聖霊から1代ずつ祝福され、列聖者も出る。しかし神は四位格ではないので、エリク王朝は三代目で絶える。これは神の御心である。
其の罪を定めるは我に非ず、其の罪を裁くは我に非ず、その罪を赦すは我に非ず。大罪と知らず犯すものを恥じず、大罪と知りて犯すものを恥じよ。汝は神の贖いの中にある。主を讃えよ」
―――
ん? あれ?
目が覚めた。エリクに最後通牒を突きつけ、そのまま御胸で眠ってしまったのか。オレはローマンの寝室にいた。ローマンはもぞもぞと寝返りをうち、何か寝言を言っている。
「…こにぃ…アンティオ…エリシャ…あれくす…」
昔の夢を見ているのか。指輪がないと気付かなかったのはよかった。起こさないように、そっと近付き、赤子のように丸まった左手を解し、親指に指輪を通す。よかった、ちゃんと返せた。きちんと穢れのないやつを。
「…ゃじ?」
「なんだ? ここにいるぞ」
ぽうっとした顔で、ぼんやりとオレの顔を見上げる息子の顔色は、月が照らすまでもなく蒼かった。
「あのな…コニーたちとけんかしたんだ」
夢の中の話だろう。俺は横になって目線を合わせた。
「ゲルマン人が仲間になって…彼らはとても彫刻がうまかったんだ。だから…俺は、マリアやイエスの像をつくろうと…したら…みんなが、それは偶像崇拝だから、絵だけにしようって…ケンカして…コニー、コニーが…」
段々と覚醒してきた瞳が、夜よりも深い絶望に吸い込まれていく。今にも興奮して叫びそうなローマンの目の前に、今さっきオレがはめた指輪をつけた、自身の左手を見せた。
「大丈夫。主は見ていて、お前の悲しみも苦しみも見ておられる。大丈夫。コンスタンティンやアンティオコスやアレクサンドリアやイェルシャラムとの仲も、この先必ず取り計らってくださる」
「ほんとか? だって、俺いっぱいころしたよ…たくさんたくさん、ころしたよ…おうさまに、さからいたくなくて…だって、だって逆らったら、スウェーデンの俺の仲間が生きてけないから、だから俺が行かなきゃ誰も来れなかったんだ」
「そうだとも。お前はそれでいいんだよ。例え神の火を盗み、国を滅ぼす者がいたとしても、お前はそれを拒否する勇気ではなく、受け入れる苦しみを分かち合うべきだ。人を殺さず、誰とも仲良くなんて、オレ達の次元じゃ祈ることしかできない。お前は分相応な行動をしたんだよ」
ぐすぐすと泣き出した息子の頭を胸に引き寄せ、頭を包み込む。なんて可愛そうな、オレの息子。出来ることなら、子供のまま、時代と共に消えゆく小さな種でいさせてあげたかった。けれども主はそれを良しとされなかった。主は俺に老成を求め、息子に自立を求め、そして闘いに巻き込まれることを望まれたのだ。
「Mea culpa. Mea culpa…(我が過ち也)」
「 Exaudivit Dominus deprecationem meam, (主は私の嘆きを聞かれる)
Dominus orationem meam suscepit.(主は私の祈りを受け入れられる)
大丈夫だからおやすみ。おまえのストラは血の赤じゃない」
「じゃあ何の赤?」
指輪を撫でて、オレは答えた。
「赤と金の聖座の色、そして、人々の苦しみから逃げなかった、おまえの宝石のような魂の色だよ」
その石の色は、少しでも不純物が入れば、赤くはならない。
お前の在り方は、濁りのない純粋なものだよ。
だからおやすみ。
起きたら陽の光の下で、そのルビーのストラを見せてあげようね。
ルビーのストラ ~完~
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