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いくそす。~2.5次元で萌と賛美を叫ぶ~

聖書二次創作・キリスト教教派擬人化BL専門サークル「いくそす。」のHP。 腐ったクリスチャン略して腐リスチャンが、腐教(布教ではない)の為に日夜東奔西走するだけの簡単な活動をしています。ここでは主に擬人化BLを置きます。 療養のため各地にはかつき(骨林頭足人)が行ってくれてます。本のご感想はゲストブックか、巻末のメッセージのコードからお願いします。

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地獄になんてイカセナイ
「兄さんを抱きたい」
「いいよ」
 こんな会話が始めてあったのは、クリスマスの動乱が明けて暫くもしない頃だった。マーティンとローマンだけが、先日の合同忘年会の時に入れ違ったので、個人的に飲みたい、と、マーティンの方から言ってきたのだ。酒が飲めるなら、仕事さえなければどこにでも行く。恵んで貰えるタバコがあるなら頂く。よく信者が友人たちをクリスマスに連れてくると、驚かれる事だ。

 全く、禁欲のイメージは一体どこからでたんだかねえ…。

 その会話をしていた時も、マーティンは殆ど素面で(いや、あれは絶対に素面だ)、ローマンのタバコの副流煙について文句を言っていた。
 しかしその話題を出したときの目付きで分かる。自堕落な兄への警告ではないのだと。本当に飢えた鹿のようだった。肉食獣のように無作為に襲うことも出来ず、弱々しくか細い足を引き摺り、砂をなめながら水を強請る、痩せ細った子鹿。
 同情したとか、可哀想に思ったとか、そういうことではない。ローマンがそう答えた理由はただ一つだ。

 弟を愛しているから。

 もしも弟を傷つける輩がいるのなら、本来であれば祈るべきだ。だがローマンの怒りは千代まで続く。ローマンの上司であるローマ教皇の発言力は、地上の権威として三本の指に入り、その影響力は宗教を飛び越え、科学倫理にまで及ぶ。
 そして弟を救う方法が、自分の貞操だというなら、喜んで差し出す位には、弟を愛していた。それでしか救われない魂があるのなら、そしてそこに自分が遣わされたのなら、それは神の御心だ。それに従うのが、ローマン・カトリックの具現たる自分の存在意義。
 最早己の欲に生きる時は過ぎた。1000年は童貞を貫いてきたが、それもここまで。肉欲により救われる魂があるのなら、それを反社会的な方法でないように、神の救いの掌として動くだけだ。



 抱きたい、とは言われたものの、マーティンは一向にその席を設けようとはしなかった。ただ酒の席の時だけ、冒頭の短いやり取りを繰り返す。これはきっと、生まれてこの方表向きは貞淑を良しとしてきた兄への精一杯の敬意と、恩赦を求める儀礼なのだろう。ただその話をするまでの酒の量は、回を重ねる毎に少なくなっていた。

「うぁー、酔った酔ったった、ちょっとシャワー浴びてくるわ」

 シャワー、という単語に露骨にマーティンが反応する。

 こいつ、本当に隠してるつもりなのか?

「酔っぱらいがシャワーなんて危ないよ」
「いいじゃねえか、酒のむと体汗ばんでくるだろ? だからすっきりしとくのー。あ、明日朝早いから、悪いけどベッドメイキングしといてくんね?」
「はあ!? そんなこと助祭か賄いさんの仕事だろ!?」
「助祭今出張中だし、賄いの婆さんはこないだぎっくり腰やっちまってねえ、いやー、他人入れないから寝室だけ散らかっちゃってさあ、とにかく頼むわ」
「ちょ、兄さん!」

 我ながら白々しい嘘を吐くが、恐らくあの表情では本気にしてるだろう。寝室が散らかっているのは本当だ。几帳面な弟はきっとあの惨状を見たら自分がローブに着替えるまで、片付けをするに違いない。
 しかしはて、と、ローマンは蛇口を捻って考えた。
 マーティンがまだ自分の名前も言えない頃から、何かと厳しく接してきて、どうにかして自分の元を離れないようにと教育してきた。人間で言えば虐待のようなものだ。新しい具現が、自分の敵でいてほしくない一心だったのだ。その結果、マーティンには各地で弟妹に恵まれた。そこからはもう、鼠も青褪める勢いで家族が増えていった。

 過去を知らない無垢な瞳が見つめる自分は、酷く醜穢だった。

 彼等の母とも言えようエラスムスが生まれるまでの苦悩も知らず、マーティンから成る家族たちは自分を責め続けてきた。まだ和解したと言っても、一部の彼の弟は、ローマンを認めていないし、彼が未だに16世紀の時代を生きていると信じている。

 つまるところ、マーティンが自分を抱きたいというのは、詭弁の筈だ。

 全く、どこまでも青臭い奴だな。そんなこと、従弟たちには通用しても、おにーやんには通用しません。

 一大作戦決行を決め、ローマンはひょっこりと首を出して叫んだ。

「兄さんうるさい近所迷惑! 何一体!」
「シャンプー切れたから、便所の前の棚から取って」
「そ、そんなもの少し身体拭いて取りに行きゃ良いだろ!」
「早く! 寒い! カノッサ並みに寒い!」

 ぶつぶつ言いながら取りに行く背が僅かに丸いし、足幅も大きい。

 分かりやすい…。あんなのだから上司に政治家を持って苦労するんじゃ無かろうか。政治家とは操るものなのだがなあ。

 べしっと詰め替えリンスの袋が投げられたので、これじゃない、その隣の、と言うと、流石に雷が落ちた。そういえば日本の勉学の神は、雷を落とした為に神として奉られているらしい。成程、こういう感じだろうか。



 モザイクの扉の前でとりあえず吠えたいだけ吠えさせて、ぐったりとした辺りで頃合いだと出る。疲れた、と判断力が欠けてきた所を、ノリでバスタブに放り込んだ。
「隅々まで洗って、リラックスしてこいよ」
 そう言ってバスローブの下にトランクス一枚だけを履いて、先に寝室に向かった。弟の性格上、家主に声をかけずに出ていくことはない。それにローマンは未だに、マーティンが抗議(プロテスト)したトラウマから、勝手に誰かがどこかに行くのを嫌う、と、弟達は知っている。いつでも、「またおいで」という別れの挨拶がなければ遠方からの来賓一人だって送り出せない臆病な面が、ローマンの堕落の根元でもある、と、自分で認識している。自分でも分かっている事を、勤勉な弟が知らないはずはないのだ。

「ちょっと兄さん! 僕帰るからまだ寝ないで…って、何してんだゴルァ!」
「あいて!」

 きっちりとスーツを着込み、帰支度をしていたマーティンが、鞄を投げつける。ポロリと零れたものを慌てて拾い上げ、バタバタと片付ける。ローマンは寝タバコをしていたのだ。勿論これも、マーティンが寝室のベッドに来るための簡単なトラップだ。

「こいつの旨味がわかんねえとは、まだまだ子供だねえ」
「いらないよこんな贅沢ひ、ん…」

 ここまで思い通りになると、始めからこいつわかってんじゃねえの、と思いたくなる。マーティンの眼が蕩けていた。
 タバコを呑んでいるのであれば、必然とその煙が外へ逃げていくように窓を開け、網戸にするものだ。細かい影によってぼんやりと、色事から離れて久しい姿態が浮かび上がる。今にも壊れて消えてしまいそうな光の粒の中に浮かび上がる、清潔さを際立たせるかのような皺のないシーツと、綿に包まれた血煙の向こうにあるだけの身体。マーティンが我を忘れたその一瞬、俊敏な掌が両耳を捕らえ、指先の糸に操られ、ローマンの舌がマーティンのそれに絡まる。驚いて硬直した可愛い弟。

 バカだね、お前。いつから自分が発奮していないと勘違いしていたんだい?

 お前がどうして抱く側に行ったのか、その愚直な理由など語らせる暇など与えない。

「んっ、ちょ、は、にいさ」
「ん~? コレが欲しかったんじゃないの~?」

 素直に口付けて頭を撫でてやると、マーティンは顔を真っ赤にして両手で覆った。

「ダメだよ、兄さんは被害者でなくちゃ」
「…」
「そうでなきゃ…巻き込まれた被害者でなくちゃ、兄さん、神父でいられない…」

 じわり、と、掌の隙間から涙が滲む。
 決して心が、情すら欲しいなどと言わない。けれども優しい兄は、甘い兄は、自分が愛情を示したら受け取ってくれるだろう。それだけでいい、だから抱かせてほしい、そう言った。

「…それでお前、満足なの」
「兄さんが兄さんでいられなくなるよか、よっぽどいい」
「…あのねぇ」

 こいつのことだからムードとかシチュエーションとか準備とか気にすると思っていたけど、止めだ止め。そんなこと言ってたら鶏が何回啼いたって終わりゃしない。
 先程とは比べ物にならないくらいの激しいキスで、マーティンの動きを封じる。もっと深くまで口付けて、と、頭に両腕が絡まり、刺激を求める体が自然と蠢く。トロトロと熔けた口元を優しく撫でると、嬉しそうにガウンの中に手を入れ、素肌に触れる掌に力を込める。抵抗せずのしかかるように体を文字通り合わせると、話すまいとローマンの膝にマーティンの脚が絡み付く。

 嬉しい、好き、そうやってされたかった。

 そんな身体の声が聞こえてくる。音をたてないようにベルトを緩め、二人の唾液で濡れた指で、恐らく予想だにしていなかったであろう場所に触れる。流石にマーティンが暴れようとしたので、トランクス越しに擦り付けた。

「俺もおんなし。だから気にすんな」
「だ、だってそこ…」
「おにーやんに任せなさい」

 く、と中指を滑り込ませたが、緊張が全てを固めてしまった。これは動けないな、と思っていると、以外やマーティンはローマンの肘を固定し、自ら腰を動かし、自分自身の指まで入れ始めた。いくらなんでも早急だ、と、注意しようとしたが、熱い液体が流れるのを感じて、ああ、と、納得した。

 自分は処女だって、改めて確認したかったんだ。

 かわいい子だね、と、ローマンは口づけながら指を入れ換える。元々余裕など無かったのだろう。抜けた指は文字通り「隅々まで洗った」香りがし、そのまま、首にまきついた。
 もう少し待ってやった方が前も溜まりそうだと思ったが、恐らくマーティンが望んでいるのはそうじゃないのだろう。少しスラックスをずらし、自分もトランクスのボタンを外して当てる。蕩けたキスを繰り返していたが、ハッとマーティンが我に返った。

「だ、だめ、兄さん、だ―――はん、あ、う…」

 嬉涙を流しながら、罪悪感に顰む眉を後ろから撫で、耳元で囁いた。

「俺が童貞主義になったの、千年前からだから。それまでは結構喰ってたから、気にしなくていいよ」
「で、でも、あ…っ」

 そう言いつつ異物を出そうとせず、どころか責めて離れないでと言うように、マーティンの身体は震えていた。恥ずかしさで死んでしまわないように、気付かず先走っている弟に歩幅を合わせ、ぴったりとくっつき、拳を握りしめる。

「だいじょうぶ。おにーやんがついてるから」
「は…っは…っは…っ」
「お前が俺を愛してくれたように、俺もお前を愛してるよ。だからここにあるのもこれから行くのも、天国だ。…いくよ」

 地獄になんて 行かせるものか

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