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いくそす。~2.5次元で萌と賛美を叫ぶ~

聖書二次創作・キリスト教教派擬人化BL専門サークル「いくそす。」のHP。 腐ったクリスチャン略して腐リスチャンが、腐教(布教ではない)の為に日夜東奔西走するだけの簡単な活動をしています。ここでは主に擬人化BLを置きます。 療養のため各地にはかつき(骨林頭足人)が行ってくれてます。本のご感想はゲストブックか、巻末のメッセージのコードからお願いします。

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我が愛しき鐡の鷲2
えってぃはないけど。そうとうに怒られそうな内容なので伏せ


 演説をして疲れた顔で帰ってきた彼は、寝室に入るなり、先客に顔を顰めた。

「全く貴様大胆だな! この私の警護を掻い潜るばかりか、丁度武器がない時にどこからか現れる! いつもいつも! 私はアヘンを吸わされたか、それともブラウンから梅毒でもうつされていたのか!」
「どちらでもないよ、ヴォルフ・トリビューン(人権擁護家)。俺はアンタが子供の時からずっとそばにいて、アンタが人間だからここにいるだけさ」

 忌々しげに、ヴォルフと呼ばれた男は勲章を外し、軍服を脱ぎ捨て、ベッドに近づいた。その手にはたった今部屋のどこからか取り出したのだろう拳銃が握られている。

「出ていけ。貴様と話すより、ユダヤ人の経済学教授と話していた方がマシだ」
「そりゃ賢明じゃないよ、ヴォルフ・トリビューン。アンタ、俺の先生と約束しただろ。その名代として俺がいるのは、寧ろお前にとって好都合だろう?」
「口ばかり達者なのは、聖書の読みすぎか? キリスト教と梅毒をアーリア人に持ち込んだこと、私は忘れてないぞ! あのおかげで、我々は優秀な多くの芸術家と思想家と研究とを得られず退化したのだからな!」

 ぐり、と、ヴォルフの拳銃が俺の額を躙る。俺は答えた。

「でもアンタは小さい頃、確かに俺のことを見ていた。そしてその故に、イエスがアーリア人だと結論を出したんだろう? ともかく、銃をおろしてくれ。俺はただ、添い寝がしたかっただけだ。アンタ、最近疲れてるだろ。そばにいてやりたかったんだ。…銃をおろしてくれよ、ヴォルフ。俺はお前の敵じゃない。仮に敵だったとして、俺に何ができると言うんだ…」

 そうだ、俺に何が出来ると言うんだ。
 遅い。もう、何もかも遅い。出来上がってしまった文化を消すことは出来ない。それはカトリック国全ての芸術と歴史の根拠を覆してしまう。だけど決して、この文化と俺が無関係だと言ってくれるものはいないだろう。
 頼りになるのは、目の前にいる共産主義と無神論者との戦いにおいて、最も勇敢で大胆なこの政治家だ。彼だけが、この文化を粉砕してくれる。事実、彼だけが、1つの文化を消そうとして、それを実行していて、誰もが納得する論理的思考を演説できるのだ。
 ほろ、ろ、ほろ。
 片方の目から、涙が1粒浮び、頬を伝う間もなく落ちた。もう片方も、そしてまた最初の目から、涙が。
 ヴォルフは面食らって、舌打ちをして拳銃を収めてくれた。

「悪いが私はホモは民族文化を停滞させ消滅させる神サマの欠陥商品だと思っている。添い寝など気色悪い」
「なら、床に座ってるよ。アンタがちゃんとぐっすり寝てるか、見てやりたいんだ」
「見られていたら寝れない」
「じゃあ、床に座って後ろを向いてるよ。な?」

 これ以上は時間の無駄だと分かってくれたのか、ヴォルフはやっと頷いて、ベッドに横になってくれた。



 数週間前のことだった。
 バチカンとナチス・ドイツは密約を交わした。政治とカトリックの独立。つまり、宗教改革以後、何かしらの形で関わってきた政治から、少なくともカトリックは、良くも悪くも守られた。しかし、これは同時に、ドイツ・キリスト者という哀れな政治活動家を生んだ。俺はまだ会えていないが、ヴォルフをトリビューンでなくさせる存在であることだけは分かっていた。
 世界大戦の余波もまだ漂う不穏な世界に勃発した、第二の世界大戦という激動の時代において、宗教家(おれたち)はあまりにも無力だった。どの国のどの舞台にも俺の仲間がいる。枢軸国のカトリックを擁護すれば、バチカンは連合国のカトリックを裏切ることになる。ナチスの行いを止めれば、ナチス関係者のカトリックは改宗を迫られ、もしかしたら殺されるかもしれない。
 パパ様は外交官出身だったから、それを何よりも分かっていた。人々は臆病だと罵り、非人道的だと裁くだろう。だが全てのキリスト的な生き方をする人々を救うには、祈る以外に何も出来なかったのだ。

「パパ様、お願いがあります」

 連日嫌でも入ってくる虐殺や弾圧の記事から目を背けるのように、その日パパ様は食事を終えられたあと、自室で事務仕事をなさっていた。手元にあるロザリオは震えて、汗ばんでいる。

「ローマン、何かありましたか。お疲れのようだ、今お茶を---」
「お願いします、俺をドイツに---アドルフ・ヒトラーの元へ行かせてください」

 パパ様はピクリと反応して、動きを止めた。俺は続けた。

「アドルフ・ヒトラーは根っからの反宗教人ではありません。幼い頃は俺のミサに出たこともあるんです。彼の中に、俺への愛が残っていることは、俺が1番よく理解出来る。…それに、ナチス党員の中でも、カトリックの人間は苦しんでる。俺は普遍ではあるけど、ここにいる時間を減らして、心血をそこにそそぎたい」

 パパ様は否定しないと分かっていた。俺の意思はローマ教皇の意思、ローマ教皇の意思は俺の意思。相反しながら矛盾しない互いだから、本当はパパ様に、こうして伺いを立てる必要も無い。
 だが、パパ様は大きなイタリア由来のくりっとした目から、薄らと短く細い涙を流した。

「お前がここからいなくなったら…。私は、一体誰とこの苦しみを分かち合えば良い? 告解では私は救われない。私の告解を聞くのは、私と同じ一神父だ。だが私は世界で唯一の教皇だ。カトリックの信者であれば、私の一声で世界をも動かせるだろう。私にはそれだけの権力がある。だが、それをもってしても、この戦争を止められない。外部に憂いを漏らすことも出来ない。私は、戦争における全ての虐殺行為を見過ごさなければならない。そうでなければ、世界は平和に導かれない。政治と経済と宗教は、全く同じで、全く違うのだ」
「パパ様、確かに俺は信仰についてしか何も言えない。それ以外のことは分からない。でも、それなら、俺だけなら、政治から独立して信仰と向き合える。彼らの良心に言葉を届けられる。頼む、パパ様」

 行かせてくれ、とは言わなかった。パパ様が葛藤してるのは分かっていたからだ。パパ様には納得して貰わなくちゃならないのだから、答えを急かすわけにはいかないのだ。教皇の発言は、信仰においてのみ神と一致する。即ち不繆性だ。俺があの国にカトリック者がいて、彼らが苦しんでいるという事実は明白であるから、彼らが信仰の助けを求めていることも事実。教皇はそれを認めることは出来ても、援助することはできない。その理由は、先ほどパパ様が仰られた通りだ。

「…わかった。考えてみれば、私のように告解を出来る信徒はまだ恵まれているのだ。どうか、言ってくれ、ローマン・カトリック。教皇(わたし)の代わりに、神の正義を彼らに届けてほしい」
「ありがとう! パクス(平和あれ)!」

 俺はパパ様の頬にキスし、部屋から飛び出した。
 信仰そのものである俺達の前に、陸海の隔ても、時間の隔ても存在しない。ただ、俺はまだ未熟だから、親父のようにひょいひょい移動はできない。結局ドイツに来たものの、そこで信仰の道筋を何度も見失い、人の噂や話を盗み聞きして、どうにかアドルフ・ヒトラーの前に出ることに成功した。
 ヴォルフ、と、幼なじみしかしらないあだ名で呼びかけると、ヒトラーは侵入者に迷わず発砲したが、それが無意味だと分かると、渋々話に応じた。そして彼の護衛が、俺を理解できないことも、彼には不思議だったようだ。
 パパ様の元を去って、最初の日曜日の夜のことだった。

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