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しとしとと小雨が降る緩やかな夜のことだった。職務を終わらせ、夜の祈りも終わり、さあ眠ろうとした所へ、来客があった。こんな時間に来客なんて、と考えるより前に、客人の正体を見抜き、すぐに寝床から抜ける。
「親父さま」
「…よう、コニー」
「随分と夜遅くに、どうかした?」
「父親が息子の寝顔を見ようと思ったらいけないか?」
「少なくともおれは、人に寝顔を見られるのは好きじゃない」
「じゃあ帰る」
「いやいや、どうぞお入りください」
サンキュー、と、ずかずかと父は部屋の中に入った。特に手土産があるわけではない。本当に寝顔を見に来ただけだったのだろうか。窓辺に立ち、此方に向き直る。入り口でぼんやりとその様子を見ていると、眠らないのか、と、父が訪ねてきた。
「………」
後ろ手に扉を閉め、静かに窓辺の父に歩み寄る。窓の向こうから差す月の光が、異教の女神の眼差しが、静かに心をかき乱す。
「勘違いしてしまう」
「何が?」
「おれが、貴方の初子(ういご)なのではないかと」
神の栄光を受け継ぎ、この世を救い給うた救世主を述べ伝える、聖なる普遍の教会(カトリック)。
東と西で分かたれて、理解も空しいままについ先日、お互いがお互いを悪魔だと断罪した。今更それを悔いることはない。悔いる必要もない。
それでも、貴方が双子の兄を選んだのだと言うのなら、それに抗議することはできない。
「お前こそ、何か勘違いしていないか?」
「え…」
顔を挟む優しい父の掌からは、過去、地べたに這い蹲(つくば)り、握りしめた砂粒の臭いがする。神を慕う民の命を護る代償の重さを、誰よりも図りたかったのは、きっと目の前にいる偉大な先人なのだろう。
「お前もお前の兄も、この父の大切な息子…。どちらが優性などという差はない」
西に住んでいるのか、東に住んでいるのか、その程度の違いしか、俺にはない。
額と額を合わせ、父の顔が見えなくなる。
「夜遅くにすまなかったな。ゆっくり眠りなさい」
す、と父が身体を引いた。そのまま踵を返して帰ろうとする父の袖を掴み、突き飛ばすように床に押し倒し、のしかかった。
「親父さま、おれを疑ったりはしないの」
「どうして疑う必要がある?」
「兄上様みたいに、欲に塗れて権力を使役し、初代教会(あなた)を蹂躙するとは思わないの」
「思わないよ」
「このまま、おれが貴方を辱めるとも?」
「思わない」
「おれが、悪魔に囁かれているとも?」
「思わない」
「………」
何だか無性に腹が立った。少し癪ではあったけれど、ぐ、と唐突に父に口づけてみる。まだ妻を持たない身では拙いものだけれども、ショックは十分だと思う。実際、短い時間はとても長くて、父は仰天していた。だが何も言わず、父は黙って此方を見上げている。乞うような眼でも、媚びるような眼でもなく、本質を見抜くような、恐ろしい眼だ。
「何も言わないの?」
「言う必要はないだろ」
「おれ、今、罪を犯したんだよ」
「そうしたら俺はお前を赦す」
「もう一度キスしようか?」
「その時はまた、お前を赦す」
「何回まで赦してくれるの」
「お前が犯した罪の七倍は赦せる自信があるよ。…俺は父親だからな」
「………」
愛される喜びを知っている人は、愛する喜びも知っている。
無限に赦される喜びを知っている人は、無限に赦す喜びも知っている。
そしてこの人は、苦しむ歓びも知っている。
「…親父さま」
「不安なら傍で寝てやるぞ」
この状況で言うなよ、と、どこかで誰かが嘲笑った。
「………。うん」
「じゃ、まくらを持ってくるから」
「おれの使って」
「………。手がしびれる前に、眠ってくれよ?」
「努力するよ、アヴァ」
もう、異形の女神はいない。
END
腐女子として、月光+寝室+床は欠かせない。寝室なのにベッドを使わない。それが正義(もう駄目だこの子)
あー、ちなみにディティモってのは双子とか二面性とかそんな意味です。時代は大シスマ(東西大分裂)の後くらい。アヴァってヘブライ語で『パパ』って意味です。7回っていうのは完全数です。どこまでも赦せって意味です。聖書のどっかにありました。ちなみにパウラは出来ません。心が狭いので3度たりとも出来ません。
「親父さま」
「…よう、コニー」
「随分と夜遅くに、どうかした?」
「父親が息子の寝顔を見ようと思ったらいけないか?」
「少なくともおれは、人に寝顔を見られるのは好きじゃない」
「じゃあ帰る」
「いやいや、どうぞお入りください」
サンキュー、と、ずかずかと父は部屋の中に入った。特に手土産があるわけではない。本当に寝顔を見に来ただけだったのだろうか。窓辺に立ち、此方に向き直る。入り口でぼんやりとその様子を見ていると、眠らないのか、と、父が訪ねてきた。
「………」
後ろ手に扉を閉め、静かに窓辺の父に歩み寄る。窓の向こうから差す月の光が、異教の女神の眼差しが、静かに心をかき乱す。
「勘違いしてしまう」
「何が?」
「おれが、貴方の初子(ういご)なのではないかと」
神の栄光を受け継ぎ、この世を救い給うた救世主を述べ伝える、聖なる普遍の教会(カトリック)。
東と西で分かたれて、理解も空しいままについ先日、お互いがお互いを悪魔だと断罪した。今更それを悔いることはない。悔いる必要もない。
それでも、貴方が双子の兄を選んだのだと言うのなら、それに抗議することはできない。
「お前こそ、何か勘違いしていないか?」
「え…」
顔を挟む優しい父の掌からは、過去、地べたに這い蹲(つくば)り、握りしめた砂粒の臭いがする。神を慕う民の命を護る代償の重さを、誰よりも図りたかったのは、きっと目の前にいる偉大な先人なのだろう。
「お前もお前の兄も、この父の大切な息子…。どちらが優性などという差はない」
西に住んでいるのか、東に住んでいるのか、その程度の違いしか、俺にはない。
額と額を合わせ、父の顔が見えなくなる。
「夜遅くにすまなかったな。ゆっくり眠りなさい」
す、と父が身体を引いた。そのまま踵を返して帰ろうとする父の袖を掴み、突き飛ばすように床に押し倒し、のしかかった。
「親父さま、おれを疑ったりはしないの」
「どうして疑う必要がある?」
「兄上様みたいに、欲に塗れて権力を使役し、初代教会(あなた)を蹂躙するとは思わないの」
「思わないよ」
「このまま、おれが貴方を辱めるとも?」
「思わない」
「おれが、悪魔に囁かれているとも?」
「思わない」
「………」
何だか無性に腹が立った。少し癪ではあったけれど、ぐ、と唐突に父に口づけてみる。まだ妻を持たない身では拙いものだけれども、ショックは十分だと思う。実際、短い時間はとても長くて、父は仰天していた。だが何も言わず、父は黙って此方を見上げている。乞うような眼でも、媚びるような眼でもなく、本質を見抜くような、恐ろしい眼だ。
「何も言わないの?」
「言う必要はないだろ」
「おれ、今、罪を犯したんだよ」
「そうしたら俺はお前を赦す」
「もう一度キスしようか?」
「その時はまた、お前を赦す」
「何回まで赦してくれるの」
「お前が犯した罪の七倍は赦せる自信があるよ。…俺は父親だからな」
「………」
愛される喜びを知っている人は、愛する喜びも知っている。
無限に赦される喜びを知っている人は、無限に赦す喜びも知っている。
そしてこの人は、苦しむ歓びも知っている。
「…親父さま」
「不安なら傍で寝てやるぞ」
この状況で言うなよ、と、どこかで誰かが嘲笑った。
「………。うん」
「じゃ、まくらを持ってくるから」
「おれの使って」
「………。手がしびれる前に、眠ってくれよ?」
「努力するよ、アヴァ」
もう、異形の女神はいない。
END
腐女子として、月光+寝室+床は欠かせない。寝室なのにベッドを使わない。それが正義(もう駄目だこの子)
あー、ちなみにディティモってのは双子とか二面性とかそんな意味です。時代は大シスマ(東西大分裂)の後くらい。アヴァってヘブライ語で『パパ』って意味です。7回っていうのは完全数です。どこまでも赦せって意味です。聖書のどっかにありました。ちなみにパウラは出来ません。心が狭いので3度たりとも出来ません。
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