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いくそす。~2.5次元で萌と賛美を叫ぶ~

聖書二次創作・キリスト教教派擬人化BL専門サークル「いくそす。」のHP。 腐ったクリスチャン略して腐リスチャンが、腐教(布教ではない)の為に日夜東奔西走するだけの簡単な活動をしています。ここでは主に擬人化BLを置きます。 療養のため各地にはかつき(骨林頭足人)が行ってくれてます。本のご感想はゲストブックか、巻末のメッセージのコードからお願いします。

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我が愛しき鐡の鷲
 私が持っている1番古い記憶は、私がまだ世間に認知される前、独り立ちを間近に控えた、直系の長兄と散歩に出た時のことだった。
 私は自分に、時同じくして生まれた兄弟がいることは知っていたが、まだあったことは無かった。実際、生まれたという知らせと消えたという知らせが、同時に来た時もあって、私達は―――有り体にいえば選別されているような状態だった。
 私は、兄弟全員をまとめる役目を仰せつかった長兄と、1番土地的に近い場所に生まれたので、長兄――マーティン兄弟と1番親しかった。少なくとも、彼と私が同一視されてしまうくらいには。
 マーティン兄弟は、私を連れて散歩に行くと、いつも難しい顔をしていた。マーティン兄弟は私の最初の先生であるマルティン・ルターと共に、なにか難しいことを語り合うために、市井に出ていたようにも思う。
 その日、1人のホームレスが、朝から酒を飲んで酔っ払っていた。彼はどこからかお金を拾っているらしく、小金持ちで、酒に事欠かなかった。けれどその日は、マーティン兄弟は虫の居所が悪かった。いや、ルター先生の方だっけ。とにかく、どちらかが、彼に声をかけた。
 「なんだい、昼間から酒浸りで。堕落しきった生活を改めないと、煉獄から出られないぞ」。そんなようなことを言った。するとそのホームレスは、ピラピラと数枚の紙切れを見せびらかして言った。「なァに、あたしにはこれがあるから、絶対に天国行きよォ」。「なんだい、その紙切れ」。「め、め、め…ええと、なんだったかな。とにかく、こいつを教会で買えば、罪を買い取ってくれるんだ。あたしゃ年で、教会を建てる労働なんて出来ねぇから、いやぁー、ありがてぇありがてぇ」。
 ヒラヒラ風にそよぐ紙切れを拝んでいるのを見て、私は唐突に理解した。
 私は大兄ローマン・カトリックに仕える修道女ではない。堕落した大兄を討ち、真なる神の組織として新しく教会を立てる、その始まりを担う為に生まれたのだと。私はマルティン・ルターを牧師として、自律と自制と、組織を排した福音主義の体現として、ヨーロッパに名乗りを上げた。
 程なくして、イギリスにカルヴァンが、フランスにユグノーが、やはり同じようにして名乗りをあげた。スイスにもツヴィンクリという人がいたが、何故か気づいたら猫になってカルヴァンの家にいた。ついでにユグノーも、いつまにかカルヴァンの元にいた。
 かくて、長老派の頭としてカルヴァンが、福音派の頭として私ルーテルが。そして私たちや、小さくこまごまとした赤ん坊の全てを纏める存在として、長兄マーティンがヨーロッパにその名を轟かせた。
 私達は神の意思で生まれたのだと確信していた。堕落した大兄の時代は終わる。私たちが、彼が怠惰と金で治めたヨーロッパを、福音と愛で治めるのだ。そう信じた私達は、大兄へ宣戦布告をした。人々は私たちを、プロテスタント(抗議者たち)と読んだ。
 大兄は戦争を止めない。何故なら始める側だから。だから私達は抗った。
 いつからか、大兄の顔をラジオや新聞で見ることさえ嫌った。もしその時、何も知らない友人が、大兄と親しくしていたら、私達はその人と二度と口を聞いてはならなかっから。
 そうして、実に400年以上、私達は対立を深めて行った。



「フラウ! フラウ! ドアを開けてくれ!」

 雨の夜、酷く不愉快な耳鳴りがしていた。急き立てられるような不安から逃れようと神に祈っていると、扉が激しく叩かれた。今私が身を寄せているこの家の主は、確か今日、何かの集会に行っていた。

「早く早く!」
「はいはい、夜も遅いんだからそううるさく―――きゃあ!」

 扉を開けた途端、部屋の主と、もう1人若い男がなだれ込んできた。雨水を吸った外套に包まれた、若い白人だ。

「閉めて閉めて、早く!」
「どうしたの、まったく…」

 彼らも何かから逃げようとしているのかもしれない。外を念の為確認したが、誰もいなかったので、扉を閉めた。

「フラウ、彼は怪我人なんだ、その、ひどく酷くされてて、だからその…」
「怪我人ならそんなに騒いだら―――…!!!」

 体が粟立った。
 口から雑言が飛び出す前に、その白人の髪の毛を掴み、外へ捨てようと体が動く。マルティンが何か言って私を止めている。
 きもちわるい。
 きもちわるいきもちわるいきもちわるいこいつはいけないここにいたらいけないせきにんをとらせなくてはせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにんせきにん

「フラウ、フラウ待ってくれ! 話を聞いてくれ!」
「どうして邪魔するのよ、よりにもよってこんなネズミを! ペストが流行ってる時代にネズミを放逐するよりタチが悪いドブネズミよ!!」
「待って、違うんだ、彼は、」
「神の輩の家にサタンは入れられないわ、早く捨てるのよ!」
「でも、でも」
「でもじゃない! あなた、ルーテル派(わたしのなかま)じゃないの! なんでそんなやつを!!」
「だって、だって、苦しんでたから…」
「そんなの演技に決まってるでしょ!! 忘れたの、カトリック(こいつ)がヒトラーになんと言って―――」

 そこまで言った時、突然奴が激しく咳き込んだ。うえ、と、僅かに白く濁った液体を吐き出す。くつろげるソファに粗相をされた気分になり、私は勝手にしろと自分の部屋に飛び込んだ。
 分かっている。今のは私が悪い。
 あいつとは、宗教改革や三十年戦争の折に、先生を通してあったことがある。だから、あいつの教義(かんがえ)は、肌で感じ取れる。
 だけど、何かが確かにおかしかった。なんというか、濁っている。連中がどす黒い欲望に染まった組織主義者だからというのではなく―――なんというか、今の彼は、ただ、私や長兄のような、ただの教会じゃないのだ。そこになにか、思想的な混ざりものがある。利権や強欲で混ざったのではない。私たちの存在する定義に濁りがある。
 私たち(プロテスタント)は、そんな濁りから神の民を守るために立ち上がった。もしかしたら、あいつにはそんな度胸も勇気もないのだろうか。いや、それにしても、自分の聖域くらいあるだろう。自分の核になる、自分を自分と定義するもの。そこが侵されてるようだった。

「…身から出た錆よ。知らないわ」

 あいつと交流を持ったら、このドイツで私は仲間を導けなくなってしまう。相手は普通の人間じゃない。決して改宗することも、転回することもない。放っておいて、いいはずなのだ。



 マルティンは私の反対に明確に反抗はしなかったが、「可哀想だから」となんとか私を宥めようとした。私はというと、宗教家として民を導くことを忘れ、混ざりものに成り果てた者に軽蔑こそすれ、同情するなんて有り得なかった。
 した所でどうなるというのだ。彼の在り方は変わらないのに。

「フラウ! 彼を許してくれるのかい?」

 彼を寝かせている部屋の前で様子を伺っていると、マルティンが嬉しそうに私の肩を叩いた。

「そんなわけないでしょ。私たち(プロテスタント)がカトリックに抗議(プロテスト)することを止めたら、この世に神の救いがなくなるわ」
「そうかい? でも気にはしてくれているんだろう? まだ寝てるだろうから、寝顔だけでも…」
「気軽に言わないで! あなた達は本で読んだ程度でしょうけど、私は当事者なんだからね!」

 私はそう言って、その場を去った。
 私たちの口論が気付けになったのか、その日に彼は目を覚ましたという。

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