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国王の寝室に出入りが許されている人間は限られている。エリク9世の寝る前の祈りの場に、ローマンではなくオレが来たことに、多少驚いたようだ。
「これはこれはいやはや…。ローマン殿のお父上ではありませんか。よもや神の御国に行く前にお会いできるとは―――此度の遠征の祝福ですかな?」
オレの前に膝まずくスウェーデン人。だがその瞳に宿るのは野心だ。ローマンを惑わせ、コンスタンティンを虐げた地の王の眼だ。それでも感じ取れる、この男の信仰心。そう、この男は信仰がありながら、互いに愛し合えと言う教えを知りながら、兄弟を、彼らの信仰を傷つけたのだ。そしてその罪にすらきづいていない。
オレは確かに、神じゃない。王座を息子に譲った老いらくだ。だがオレは後継者にいったいどれだけの屈辱と恐怖とを味わったのか、それはあまり伝えていない。それを伝えてしまえば、息子たちはそれをやり返すだろうし、何よりオレが息子たちに伝えるべきは福音だ。だから断じてそれはならないのだ。
「祝福、だと?」
「久しく古書と聖伝にしかおられなんだお方が、こうして現れてくださった、この喜びを、なんといたしましょう」
敬虔な信徒であることは伝わってくる。だがそれがなんであろう。赦すべきは神のみ、ならばオレが出来ることは―――。
「祝福されるようなことに心当たりがあるのか?」
「カトリックから離反した東ローマを退治したことに関する」
目の前が真っ暗になった。
離反? だれが? 何故? 何のために?
結束していた息子達を引き裂いたのは誰だ。何があの子達を別った。お前達権力者じゃないか! あのラテランの教会で、あの子達に優劣をつけたのは誰だ!
「エリク9世、貴様、東ローマが邪教と言いたいのか」
「無論」
思わず張り倒した。
邪教? だれが? 五本山と謳われた俺の息子たちになんの違いがあったというんだ。ただローマが勢いづいただけじゃないか! コンスタンティノープルだって負けてはいなかった。ローマンもコニーも、同じことを言っていた。言っていて、各々が熱い思いに燃えていたのに、それを…それを!
「ふざけるな!! 貴様は主の導きに従いながら、何故己の隣人も分からず流血を許した!? それを罪に怯えることもなく、信仰の具現たり元祖たるこのオレに向かって祝福を求めるつもりか!? 身の振り方を考えるがいい、罪人(つみびと)が!」
ここまで怒ったのは久しぶりだった。ローマンに天国の鍵を譲って来てからは、俺はあの子が罪に気付くのを待ち続けた。政治の重みに耐えられない時には体を預かった。ローマンが悩み苦しむ時は同じように悩み苦しみ、罪の沼から足掻くローマンを狂いそうな思いで見守っていた。
だが西ローマが生き残り、大シスマによってあの子達が別れてから、二人は変わってしまった…。
権力さえなければ…権力さえ、なければ! オレが政治家なんかを懐柔しなければ!
オレの蒔いた種でも、エリクが憎い。オレは原始教会にして初代教会、全てのキリスト者の模範となるべき神の似姿。それでもオレには人間の魂がある! 愛する者を汚され泣かされ侮辱され、怒らない父がいようか!
「身の振り方を弁えるのは貴方ではないですかな? お父上」
突如として、エリクの声が低くなる。その声をオレは知っている。それは敵意の声ですらない。敬虔な生娘を手中に納めんとしたあの貴族と同じ、野心の声だ。だが権力者がなんだ。野心がなんだ。オレは自由なる全ての信仰そのもの。誰であろうと信仰(オレ)の否定は出来ない!
オレは如何なる脅しにも屈する必要がないのだ。
「確かに、悠久の時を生きてきた貴方には、私の命など瞬きの内に醜く老いてしまうでしょう。しかしお父上、なればこそ欲が深いのは貴方もご存知では?」
「何が言いたい」
「何、伝説の人物がこれほどまでに、光輪の如く美しい髪と神の光のような眼(まなこ)を持っておられる。私はスウェーデン国王。家柄も地位も金も、全てを持って生まれた。あとは―――」
その両手がオレの頬に触れる。汚らしい、と、弾き飛ばすと、胸元を捕まれ、ベッドにうつ伏せに押し付けられる。その間に、頭の後ろで手首を拘束された。視界が利かない中、耳元に響くのは、オレが予期していた展開の中で最悪のもの。
「私だけの娯楽です」
カズラが引き裂かれる音がした。
「これはこれはいやはや…。ローマン殿のお父上ではありませんか。よもや神の御国に行く前にお会いできるとは―――此度の遠征の祝福ですかな?」
オレの前に膝まずくスウェーデン人。だがその瞳に宿るのは野心だ。ローマンを惑わせ、コンスタンティンを虐げた地の王の眼だ。それでも感じ取れる、この男の信仰心。そう、この男は信仰がありながら、互いに愛し合えと言う教えを知りながら、兄弟を、彼らの信仰を傷つけたのだ。そしてその罪にすらきづいていない。
オレは確かに、神じゃない。王座を息子に譲った老いらくだ。だがオレは後継者にいったいどれだけの屈辱と恐怖とを味わったのか、それはあまり伝えていない。それを伝えてしまえば、息子たちはそれをやり返すだろうし、何よりオレが息子たちに伝えるべきは福音だ。だから断じてそれはならないのだ。
「祝福、だと?」
「久しく古書と聖伝にしかおられなんだお方が、こうして現れてくださった、この喜びを、なんといたしましょう」
敬虔な信徒であることは伝わってくる。だがそれがなんであろう。赦すべきは神のみ、ならばオレが出来ることは―――。
「祝福されるようなことに心当たりがあるのか?」
「カトリックから離反した東ローマを退治したことに関する」
目の前が真っ暗になった。
離反? だれが? 何故? 何のために?
結束していた息子達を引き裂いたのは誰だ。何があの子達を別った。お前達権力者じゃないか! あのラテランの教会で、あの子達に優劣をつけたのは誰だ!
「エリク9世、貴様、東ローマが邪教と言いたいのか」
「無論」
思わず張り倒した。
邪教? だれが? 五本山と謳われた俺の息子たちになんの違いがあったというんだ。ただローマが勢いづいただけじゃないか! コンスタンティノープルだって負けてはいなかった。ローマンもコニーも、同じことを言っていた。言っていて、各々が熱い思いに燃えていたのに、それを…それを!
「ふざけるな!! 貴様は主の導きに従いながら、何故己の隣人も分からず流血を許した!? それを罪に怯えることもなく、信仰の具現たり元祖たるこのオレに向かって祝福を求めるつもりか!? 身の振り方を考えるがいい、罪人(つみびと)が!」
ここまで怒ったのは久しぶりだった。ローマンに天国の鍵を譲って来てからは、俺はあの子が罪に気付くのを待ち続けた。政治の重みに耐えられない時には体を預かった。ローマンが悩み苦しむ時は同じように悩み苦しみ、罪の沼から足掻くローマンを狂いそうな思いで見守っていた。
だが西ローマが生き残り、大シスマによってあの子達が別れてから、二人は変わってしまった…。
権力さえなければ…権力さえ、なければ! オレが政治家なんかを懐柔しなければ!
オレの蒔いた種でも、エリクが憎い。オレは原始教会にして初代教会、全てのキリスト者の模範となるべき神の似姿。それでもオレには人間の魂がある! 愛する者を汚され泣かされ侮辱され、怒らない父がいようか!
「身の振り方を弁えるのは貴方ではないですかな? お父上」
突如として、エリクの声が低くなる。その声をオレは知っている。それは敵意の声ですらない。敬虔な生娘を手中に納めんとしたあの貴族と同じ、野心の声だ。だが権力者がなんだ。野心がなんだ。オレは自由なる全ての信仰そのもの。誰であろうと信仰(オレ)の否定は出来ない!
オレは如何なる脅しにも屈する必要がないのだ。
「確かに、悠久の時を生きてきた貴方には、私の命など瞬きの内に醜く老いてしまうでしょう。しかしお父上、なればこそ欲が深いのは貴方もご存知では?」
「何が言いたい」
「何、伝説の人物がこれほどまでに、光輪の如く美しい髪と神の光のような眼(まなこ)を持っておられる。私はスウェーデン国王。家柄も地位も金も、全てを持って生まれた。あとは―――」
その両手がオレの頬に触れる。汚らしい、と、弾き飛ばすと、胸元を捕まれ、ベッドにうつ伏せに押し付けられる。その間に、頭の後ろで手首を拘束された。視界が利かない中、耳元に響くのは、オレが予期していた展開の中で最悪のもの。
「私だけの娯楽です」
カズラが引き裂かれる音がした。
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