"萌え文"カテゴリーの記事一覧
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歴史上の人物×初代さん
まだまだ続くよ! R18 -
この先R18です。歴史上の人物×初代さん
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国王の寝室に出入りが許されている人間は限られている。エリク9世の寝る前の祈りの場に、ローマンではなくオレが来たことに、多少驚いたようだ。
「これはこれはいやはや…。ローマン殿のお父上ではありませんか。よもや神の御国に行く前にお会いできるとは―――此度の遠征の祝福ですかな?」
オレの前に膝まずくスウェーデン人。だがその瞳に宿るのは野心だ。ローマンを惑わせ、コンスタンティンを虐げた地の王の眼だ。それでも感じ取れる、この男の信仰心。そう、この男は信仰がありながら、互いに愛し合えと言う教えを知りながら、兄弟を、彼らの信仰を傷つけたのだ。そしてその罪にすらきづいていない。
オレは確かに、神じゃない。王座を息子に譲った老いらくだ。だがオレは後継者にいったいどれだけの屈辱と恐怖とを味わったのか、それはあまり伝えていない。それを伝えてしまえば、息子たちはそれをやり返すだろうし、何よりオレが息子たちに伝えるべきは福音だ。だから断じてそれはならないのだ。
「祝福、だと?」
「久しく古書と聖伝にしかおられなんだお方が、こうして現れてくださった、この喜びを、なんといたしましょう」
敬虔な信徒であることは伝わってくる。だがそれがなんであろう。赦すべきは神のみ、ならばオレが出来ることは―――。
「祝福されるようなことに心当たりがあるのか?」
「カトリックから離反した東ローマを退治したことに関する」
目の前が真っ暗になった。
離反? だれが? 何故? 何のために?
結束していた息子達を引き裂いたのは誰だ。何があの子達を別った。お前達権力者じゃないか! あのラテランの教会で、あの子達に優劣をつけたのは誰だ!
「エリク9世、貴様、東ローマが邪教と言いたいのか」
「無論」
思わず張り倒した。
邪教? だれが? 五本山と謳われた俺の息子たちになんの違いがあったというんだ。ただローマが勢いづいただけじゃないか! コンスタンティノープルだって負けてはいなかった。ローマンもコニーも、同じことを言っていた。言っていて、各々が熱い思いに燃えていたのに、それを…それを!
「ふざけるな!! 貴様は主の導きに従いながら、何故己の隣人も分からず流血を許した!? それを罪に怯えることもなく、信仰の具現たり元祖たるこのオレに向かって祝福を求めるつもりか!? 身の振り方を考えるがいい、罪人(つみびと)が!」
ここまで怒ったのは久しぶりだった。ローマンに天国の鍵を譲って来てからは、俺はあの子が罪に気付くのを待ち続けた。政治の重みに耐えられない時には体を預かった。ローマンが悩み苦しむ時は同じように悩み苦しみ、罪の沼から足掻くローマンを狂いそうな思いで見守っていた。
だが西ローマが生き残り、大シスマによってあの子達が別れてから、二人は変わってしまった…。
権力さえなければ…権力さえ、なければ! オレが政治家なんかを懐柔しなければ!
オレの蒔いた種でも、エリクが憎い。オレは原始教会にして初代教会、全てのキリスト者の模範となるべき神の似姿。それでもオレには人間の魂がある! 愛する者を汚され泣かされ侮辱され、怒らない父がいようか!
「身の振り方を弁えるのは貴方ではないですかな? お父上」
突如として、エリクの声が低くなる。その声をオレは知っている。それは敵意の声ですらない。敬虔な生娘を手中に納めんとしたあの貴族と同じ、野心の声だ。だが権力者がなんだ。野心がなんだ。オレは自由なる全ての信仰そのもの。誰であろうと信仰(オレ)の否定は出来ない!
オレは如何なる脅しにも屈する必要がないのだ。
「確かに、悠久の時を生きてきた貴方には、私の命など瞬きの内に醜く老いてしまうでしょう。しかしお父上、なればこそ欲が深いのは貴方もご存知では?」
「何が言いたい」
「何、伝説の人物がこれほどまでに、光輪の如く美しい髪と神の光のような眼(まなこ)を持っておられる。私はスウェーデン国王。家柄も地位も金も、全てを持って生まれた。あとは―――」
その両手がオレの頬に触れる。汚らしい、と、弾き飛ばすと、胸元を捕まれ、ベッドにうつ伏せに押し付けられる。その間に、頭の後ろで手首を拘束された。視界が利かない中、耳元に響くのは、オレが予期していた展開の中で最悪のもの。
「私だけの娯楽です」
カズラが引き裂かれる音がした。 -
ああ、ああ、愛しい我が初子よ。なぜお前は殺戮を繰り返す?
オレが悪かったのか。オレは、オレは、ただ―――。
※
「親父、そんなに俺が嫌いなら、もう可愛そうなコニーのとこにでも行っちまえよ」
血塗られた剣は、かつて、オレの仲間の首を断ち切った剣。俺の意志を継がせたローマンは、それを自ら血を分けた双子の弟に向けた。
コンスタンティン・カトリック―――ローマン・カトリックが西の天の王だとしたら、コンスタンティンは東の天の王だ。11世紀始めに、時の権力者達に引き裂かれ、ローマンはたった一人、西の王となった。東の王であるコンスタンティンには、まだ兄弟がいたが、ローマンは一人だった。それがきっと、いけなかったのだ。
でも。
オレにはそれしか思い付かなくて…。どうしてもオレは、護りたかった。安全な信仰が許されるまで、五人の子供を護り通したつもりだったんだ。
誰も血なんて望んでない。ローマンだって同じ筈だ。それでもその剣が、信仰の内に死んでいった神学者の血を吸ったその剣が、血を欲するのは何故だ? あの神学者が生きていたとき、お前たちは助け合っていたじゃないか。
オレのせいなのか? オレは、ただ、護りたかったんだ。信仰の自由を、そして仲間を。だからローマ帝国に身を委ねたんだ。国教として既存のミトラ教を吸収して、国に信仰の自由を認めさせたんだ。
それなのにどうしてお前は―――東ローマ帝国を滅ぼしたんだ? あそこに自分の兄弟がいたことくらいわかってた筈だ。
オレには年の離れた兄と弟がいる。同じ神を奉る兄弟が。なのに息子はそれがわからない。上部の言葉だけに騙されて、本質が見えていない。
天国の鍵を継承させたオレに出来ることは、もう何もない。
「あん? 親父、湯浴みでもするのか?」
「違う」
脱いだ上着は黄ばみ、最早なんの権力も持たない白衣(アルバ)だ。それをローマンの身体にかけ、しっかり抱き締める。だがそれでも、オレの愛は伝わらなかったらしく、鬱陶しそうに舌打ちをし押し返す。それでも強く抱き締め、耳元に唇を寄せる。
仮令戒律が禁じていたとしても、関係ない。オレは息子を愛してるんだ。これ以上血を流させるくらいなら―――。
「オレを壊せ、ローマン。…まだ身体が疼くだろう、破壊を求めて…。何かに当たりたいならオレにあたれ」
「………。親父、それ、意味解ってんのか?」
オレが幼い頃、権力者に付けられた生々しい背中の傷を握りしめられる。血が滲み、最早知識と復讐心という名の信仰にすげ替えられた古傷だ。握りしめる手は震え、戦場の昂りを思い出した身体が思いきりオレの身体を床に叩きつけ押さえ込む。いつの間にか戦場で鍛えられた筋肉は、本来オレ達には無縁のモノだった。
「俺たちが彼の地でどれ程狂暴だったか知ってんのか? ああそうさ、まだ身体が疼くよ。もっと血が欲しい、壊せるものは片っ端から壊したい、そういう奴なんだよ、俺は! アンタが鍵を譲ったのは、そういう邪教の毒麦なんだよ! 悲しいか? 悲しいならなんか言ってみろよ、この骨董品!」
その眼は獰猛で、鼻息も荒く、まさに飢えた鹿のようだった。谷川の血水を求め、牧者を失いさ迷う鹿。それでも俺には、息子は悲鳴をあげているように見えた。
大丈夫だと言ってやりたい。お前は穢いだけじゃないと言ってやりたい。でもそんなことを、この子は求めていない。
今この子が求めているのは、堕落と断罪だ。
「…………好きにしていいのか?」
アルバを脱いで、大分薄くなった胸を広げた。目を血走らせ、まるで飢えた狼だ。元は可愛い羊だったというのに。
否、今でもこの子は羊だ。ただ牧者から離れ、死の谷を歩むことを恐れているだけなのだ。そして今、この子の牧者は良心(オレ)しかいないのだ。欲さずとも命をもお前の為に、投げ出せる、そういう方がいたことを思い出せないくらいに疲弊した―――。
暴力は嫌いだが耐えられない訳ではない。てっきり血に飢えたこの子は俺の胸を剣で貫くのだろうと覚悟していたが、意外や、そっと近づいてきて首に抱き付いてきた。ああそうか、何故気付かなかったのだろう、彼は放蕩息子だということに。かつて、あの方が説かれたように、きつく抱き締める。といっても、オレの細くなった腕では、兵士になってしまった司祭を抱き締めるにはあまりに頼りなかった。
結局オレはまた、大切な人が傷付き嘆き磨り減り、衰退していくのを見る事しかできないのだ。
「………かった」
「ん?」
「俺だって行きたくなんかなかったんだよおおおっ! 俺の先生はパパ様だけだ! スウェーデン国王じゃねえ!」
「そうだな。後にも先にも、ローマン・カトリック(お前)の導き手はローマ教皇、仕えるのは主(しゅ)だけだ」
堰を切ったように泣きじゃくり暴れる身体を抱き締め、こいつらが幼かった頃のように横抱きにして肩を擦る。
もしオレが、迫害に耐えきり、国からの何の保護も求めなかったならば、こうして政治の道具にされることもなかったのだろうか。
否、同じことだ。力ある者が信仰を持てば、何らかの闘争においてオレ達を求める。そして、オレたちはそれに逆らえない。どんなに警告してもだ。そして戦場で彼らは、訳のわからない言葉で同じ信仰を掲げる人々を殺すのだ。時には分かりあえる言葉で話せる人々とも。
「政治なんか嫌いだ! 権力なんて嫌いだ! なのに仲間を護る為にはそれしかないんだ! どうしたら親父みたいに…なれるんだよぉ……」
しゃくりあげながら、ずるずる泣くローマンの頭を抱いて、深く後悔した。
オレは安全になったと勘違いして天国の鍵を渡してしまった。その先にある試練の事など考えなかった…。
今、オレの息子達が苦しんでいるのは、オレの所為だ。
※
オレの膝の上で泣きつかれて眠ったローマンを壁にもたれ掛からせ、そっと右薬指の指環を抜いた。世界にたった一つの指環。持ち主(先生)の数だけある、教会(オレ)との繋がりの指環だ。
「少し、借りるからな。必ず返すから良い子にして寝てるんだぞ」
盲人のように迷うことのないように、額に十字を切り、オレは身支度を調えた。
アルバを腰ひも(チングルム)で締め、赤いストラを首から垂らし、外套(カズラ)をその上に被る。何処からどう見ても、最高位の聖職者だ。帽子は…まあ、仕方ないか。オレには馴染みの無いものだしな。
馬を駆り、向かうは最愛の息子を傷つけたあの男の下。
オレは天の王にしか仕えない。地上の王も道端の乞食もオレには等しい存在だ。家と家とに挟まれ振り回されることもない。第一オレは、既に地位を継がせた、文字通りの骨董品だ。だがその骨董品にも、付加価値があることもある。つまり、それは息子達の源流がオレだと言うことだ。即ち我ら普遍の信仰の一族の、原点にして頂点。
オレを自分だけが独占したと思うような輩は必ず滅ぶ。遅かれ早かれ、オレの真の主を見極められなかった者は、奪われ壊され絶望の中を死んでいく。逆もまた然り、オレがその他大勢のモノだと理解した人間は、例え眠り続ける身となりても希望に生きる。
スウェーデン国王エリク9世―――貴様は、どちらだ?
続く